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HIVとは
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、免疫系を攻撃するウイルスで、未治療のまま進行すると後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こします。HIVに感染すると、体の免疫システムが徐々に弱まり、日常的な感染症や特定の癌に対する抵抗力が低下します。
症状の進行
急性HIV症候群症状の進行
感染後2~4週間で発熱、疲労、発疹、リンパ節の腫れなどのインフルエンザ様症状が現れることがあります。多くの場合、HIV感染に気づきません。
無症候期
数年から十数年続くことがあり、この期間は症状がほとんどありませんが、ウイルスは体内で増殖し続けます。
エイズ発症
免疫機能が著しく低下し、日和見感染や特定の癌などの重篤な疾患が発生します。治療を受けない場合、生命に関わる状況になることが多いです。
HIV検査
抗原抗体検査(第4世代)※即日検査
血液中のHIV抗体と抗原を検出する最も一般的な検査方法です。感染初期から検出可能な抗原を測定することで、早期診断が可能です。当クリニックでは、最短30分で結果が判明する即日検査キットを導入しています。
核酸増幅検査(NAT検査)
HIVの遺伝子(RNA)を検出し、感染の有無を確認します。ウインドウ期間が短く、非常に早期に感染を検出することができます。
検査のタイミング
感染機会から一定期間経過後
HIV感染のリスクがある行為を行った後、すぐに検査を受けることは有効ではありません。感染機会から4~12週間経過してから検査を受けることが推奨されます。この期間は「ウインドウ期」と呼ばれ、抗体や抗原が検出されにくい時期です。
HIV治療
治療の目的
ウイルス量の抑制
抗HIV薬(ART)を使用して血中のHIVウイルス量を検出限界値未満に抑えることが目標です。これにより、免疫機能の低下を防ぎ、回復を目指します。
免疫機能の回復
CD4陽性T細胞の数を増やし、免疫機能を回復させます。これにより、日常的な感染症や特定の癌に対する抵抗力が向上します。
エイズ発症の予防
適切な治療を受けることで、エイズ発症を防ぐことが可能となります。エイズ発症後の治療も可能ですが、早期治療が最も効果的です。
治療薬
抗HIV薬
逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬などが使用されます。これらの薬剤はHIVの増殖を抑制し、免疫機能の維持を助けます。
多剤併用療法
複数の薬剤を組み合わせて治療を行い、ウイルスが増えるのをおさえ、さらに耐性ウイルスの発生を防ぎます。これにより、病気の進行を止め、エイズ発症もありませんし、余命も感染していない方とほとんど変わらなくなりました。そしてU=Uとなります。今の抗HIV薬は1日に1錠でも、その中に複数の薬が組合されていて、多剤併用療法です。
近年のHIV治療状況
HIV治療は、この10~20年で飛躍的な進歩を遂げました。かつては多剤併用療法で1日20錠以上の内服が必要でしたが、現在では1日1錠で治療が可能になっています。1錠の中に複数の薬剤が含まれているため、服薬の負担が大幅に軽減されました。
また服薬のタイミングについても、以前は食事の有無や時間の厳守が求められましたが、現在は±2時間の範囲であれば問題ありません。毎日欠かさず服薬を続けることで、多くの患者さんで病状が安定しています。
一部の専門家からは、薬剤耐性ウイルスの出現を危惧する声もありますが、適切な服薬アドヒアランスが維持されている限り、耐性ウイルスが発生するリスクは極めて低いと考えられています。実際、この10〜20年の間に服薬を守っている患者さんから耐性ウイルスが検出された例はほとんどありません。
つまり現在のHIV治療は、服薬を継続することでウイルスを確実に抑え込み、健康な生活を送ることができるレベルに達しているのです。これは10年前、20年前とは比べものにならないほどの進歩と言えるでしょう。
「U=U」という概念について
近年、「U=U(Undetectable:検出限界値未満=Untransmittable:うつらない)」という概念が注目を集めています。これは、HIV陽性者が適切な治療により血中ウイルス量を検出限界値未満に抑えられた状態を維持すれば、日常生活や性行為を通じて他者にHIVを感染させるリスクがほぼゼロになるという科学的事実を表しています。
実際、複数の大規模臨床研究によって、検出限界値未満を達成したHIV陽性者からパートナーへの感染例は皆無であることが証明されました。つまり、治療が奏功しているHIV陽性者から他の人にはうつりません。
このことは、HIV陽性者の方々にとって大きな朗報と言えるでしょう。「U=U」のメッセージは、HIV陽性者が社会の中で安心して暮らしていくための強力な後ろ盾となります。同時に、HIV感染症に対する社会の理解を深め、差別や偏見の解消にも繋がることが期待されます。
ただし、「U=U」を実現するためには、服薬アドヒアランスの維持が不可欠です。またパートナーへのHIV感染リスクがゼロになったとしても、コンドームの使用をはじめとする性感染症予防策の重要性は変わりません。HIV以外の性感染症の予防という観点からも、引き続き注意が必要です。